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神奈川県におけるPFIの取組み

1 本県における民間資金活用の必要性と理由

 (1) 本県を取り巻く環境
  (ア) 県の厳しい財政状況への対応
     県税収入が落ち込むなかで、県債の満期一括償還のために多額の公債費が必要となる時期
     (「県財政の現状と今後の展望−財政健全化の指針−」「3つの10%目標」)
  (イ) 行政改革の推進(小さな政府が求められている)
     ・公共と民間との新たな役割分担の形成の要請
  (ウ) 少子・高齢化社会や新しい県民ニーズへの対応
     ・「かながわ新総合計画21」の着実な推進

     ※ 自治体のみでは県民ニーズに応じたすべての課題を解決することは困難
     ※ 民間に委ねられるものは、積極的に民間事業者にお願いする。

 (2) 解決のための手法
  (ア) リース(神奈川)方式の検討
  (イ) PFI手法の活用

  ※景気が安定し回復したとしても、PFIの考え方は、今日及び将来の潮流である。

2 庁内推進体制

 (1)「リース・PFI担当課長」の設置(11年6月)
 (2)「県有地・県有施設利用調整会議」(11年11月PFI等の業務を追加)
  [所掌事務]
   ・財政運営と連動した資産としての県有地・県有施設の有効活用
   ・行政システム改革と連動した県有施設の集約化及び適正配置
   ・民間の資金、技術、ノウハウの活用による県有施設の整備
    ※ 各担当部局での検討を基に、PFI手法による整備手法の適否の方向付けを行う。
 (3)「県有施設建築計画検討会議」(11年9月設置)
  [所掌事務]
   ・PFIについては、「県有地・県有施設利用調整会議」において、方向付けされたものに対して、技術的・財政的視点や他計画との整合性との検討を行う。
 (4)リース・PFI担当セクションの設置(12年4月)

3 PFIの先駆けとしてのリース(神奈川)方式の活用

 (1)リース(神奈川)方式はPFIの先駆け(県独自の検討)

 (2)リース(神奈川)方式の類型

   ア 賃貸借方式

   イ 割賦方式

    ※ 施設の維持管理も行なわせる場合は、メンテナンス・リース契約の締結による。

 (3)リース(神奈川)方式を活用する効果

   ア 一時的支出の抑制、支出額の平準化

   イ コストや工期の縮減

   ウ 施設のライフサイクルコストの低減

 (4)リース(神奈川)方式とPFIの相違

   ア リース(神奈川)方式は、PFIと同様の理念に基づくもの

   イ 両方式の相違
    ・PFIは、PFI法の予定する手続を踏んだもの
    ・リース(神奈川)方式は、PFI法の手続によらずに、民間の資金や技術、ノウハウを活用する手法

   ウ 両方式の使い分け
    ・事業ごとに、どちらの方式を採用した方が事業を円滑に推進できるかという観点から、両方式の使い分けを決していく。

     ○ PFI法成立前において、リース(神奈川)方式で整備を図ることが方向付けられていた、県立保健医療福祉大学(仮称)、新衛生研究所及び近代美術館新館の3施設について、PFI法成立を受け、PFI方式と比較した結果、PFIがコスト的に有利であるため、PFI法の手続に乗せることとした。

4 PFIの活用についての考え方

 (1)対応

   ア 国の基本方針が出されたことを受け、各省庁のガイドラインの策定状況を勘案しながら、全庁的な共通の理解を図るため、PFI活用にあたっての県の考え方や手順を盛り込んだ指針として、「PFI事業導入の指針(仮称)」を策定予定(12年度)
   イ 事業を発案した部局において、下記(2)の視点を基にPFIの可能性を検討。その後、「県有地・県有施設利用調整会議」においてPFI方式がよいか従来方式がよいかの検討を行った上で、同会議においてPFIによることが方向付けられた事業においてバリュー・フォー・マネー(VFM)の検討を行う。
   ウ リース・PFIの限度額は、今後5年間で、施設整備に係る残高として、概ね1,000〜1,500億円を予定
   エ 比較的導入しやすい「庁舎PFI」から取組みを開始したが、ソフト事業におけるPFIの活用の導入も図るべく検討を重ねる。

 (2)PFI事業にあたっての視点(判断基準)

   ・PFIを導入しやすい事業として、以下の9点を判断基準としている。

    @ プロジェクトの領域が明確なもの
    A 運営収入が見込める事業であるもの
    B 業績(アウトプット)の計測が容易なもの
    C 建設段階よりも運営段階の比重が高いもの
    D 設計段階から民間事業者の創意工夫が可能なもの
    E 民間事業者が資産を取得した場合に、他の用途に転用可能なもの
    F 民間事業者の実施にあたり、適切にリスクをコントロール可能なもの
    G 事業環境の変動が著しいもの
    H 県が直接実施した場合に、財政上の負担が大きいもの

 (3)一般的なスケジュール

  従来    1年目       2年目       3年目 4〜5年目 6年目
  方式    調査設計      基本設計      実施設計 建設  事業実施

        

5 具体の実施事例(県立保健医療福祉大学(仮称)について)

 (1)事業の概要

   ア 目的
     高齢化社会で求められている保健・福祉・医療の総合的な能力を有する人材を育成するため、複数の資格取得が可能な教育や専門分野間の枠を超えた教育を目指す目的で、4年制の大学を整備する。

   イ 施設の概要
    @ 建設予定地 横須賀市平成町1丁目10番
    A 敷地面積  37,821.80?
    B 建築概要  延床面積40,000?以下
    C その他
      (ア)開学時期 平成15年4月1日
      (イ)学部・学科の基本構成及び入学定員(学部・学科名は仮称)
        1学部(保健福祉学部)4学科・220人(看護学科80人・管理栄養学科40人・社会福祉学科60人・リハビリテーション学科40人)
         ※ 教職員及び学生で最大約1,200人規模

   ウ PFI業務の範囲
      校舎に関する次の業務
    @ 設計業務
    A 建設業務(グラウンドの造成等を含む)
    B 校舎の30年間の割賦販売業務
    C 校舎の維持管理業務
     (a)建物保守管理(機能維持のための修繕を含む)
     (b)設備保守管理(機能維持のための修繕を含む)
     (c)清掃業務
     (d)保安警備業務
     (e)環境衛生管理業務
     (f)植栽処理業務

   エ 事業期間
    @ 設計・建設期間           契約に示す日〜平成15年1月
    A 引渡及び所有権移転の期限      平成15年1月末日
    B 開学                平成15年4月
    C 維持管理期間            引 渡 日 〜平成45年3月

   オ 募集及び選定スケジュール
    @ 募集要項等配付           平成11年10月19日〜10月25日
    A 質問回答         (第1回)平成11年10月25日〜11月5日
                   (第2回)平成11年11月8日〜11月22日
    B 参加表明書・資格確認書類の受付   平成11年12月1日〜12月6日
    C 資格確認結果・提案要請書の通知   平成11年12月8日
    D 実施方針、特定事業の選定公表    平成12年1月21日
    E 提案書の受付            平成12年2月8日〜2月10日
    F 優秀提案・佳作提案の選出、結果通知 平成12年4月7日
    G 事業者の選定            平成12年5月中旬
    H 基本協定締結            平成12年5月
    I 基本契約締結            平成12年7月(6月県議会議決後)
    J 割賦販売等に関する付属契約締結   平成13年3月
    K 維持管理業務に関する付属契約締結  平成15年1月

 (2)事業スキーム

   ア BTO方式(文部省の大学設置認可基準の関係から)
    (校舎の設計・施工後、県に所有権を取得させ、維持管理業務を30年間行う)

   イ PFI事業の形態
      サービス購入型とする

   ウ アドバイジング体制

    



   エ 契約の形態
              

      

   オ スキームのイメージ

 ※ 応募段階では、建設会社、設計会社及び割賦販売事業者で構成されたグループで応募することを条件とした。

 (3)事業実施手順

   ア 実施方針の策定(資料1参照)

    @ 事業範囲の明確化
    A しっかりした事業スキームの構築
    B 官民のリスク分担の洗い出し
    C 基本方針との整合性チェック(作成当時は基本方針の想定案との整合性)
    D 法律的な問題の有無につきチェック(弁護士との相談)

   イ 特定事業の選定

    ・バリュー・フォー・マネー(VFM)の試算(資料2参照)
     @ コスト算出
        県が直接実施した場合のコスト(PSC)とPFIで実施した場合の県の負担するコストとの比較
     A リスク分担の調整(定量・定性的効果)
        民間へ移転されるリスクの洗い出しの検討・価格への換算
     B PFI方式で事業を実施した場合の便益の検討(定性的効果)

   ウ 募集要項の作成(様式、仕様書を含めると厚さ3cm程度)

    @ 募集要項作成時の留意事項
     (ア)実施方針との整合性チェック
     (イ)法律的な問題の有無につきチェック(弁護士との相談)
     (ウ)性能発注に基づいた仕様書の作成
       ・仕様書には完成状態の定義(要求水準)を示すことが必要(維持管理については定義が難しい)

        ※ 文章によってどのように表現していくかが難しい。

     
例:清掃後は、乱雑になっておらず、目に見える埃や汚れ、土がないようにし、部屋はすぐ使える状態にしておく。

       

    A 募集要項のほか次の資料を配布
     (ア)様式集
     (イ)仕様書
         配置計画、施設計画、外構計画、内外仕上表、設備仕様書、
         耐震に対する施工基準、維持管理仕様書設計・建設条件
     (ウ)設計条件、敷地条件、インフラ整備状況、位置図、測量図、
         海辺ニュータウン地区地区計画、周辺道路等関係図、地質調査報告書、関係法令
      ※ 以下は「参考資料」として配布
     (エ)諸室関係資料
     (オ)備品リスト(工事を伴う備品、工事を伴わない備品)
     (カ)AV機器等リスト
     (キ)「県立保健医療福祉系大学整備計画」

   エ 質問回答書の作成(資料3参照)
    ※ 募集要項に対する質問について、文書で回答した。
     第1回質問数  548問
     第2回質問数  309問
     総    数  857問 
質問・回答の例:
・学生による損傷、落書き等のリスクは県のリスクと考えてよいか。
⇒当然予想されるものとし、長期修繕計画に費用計上すること。
・「債権譲渡は割賦部分と維持管理部分を一体として行うことを前提」とあるが、分離する検討の余地はあるか。
⇒今回のプロジェクトは、設計、建設・維持管理を含めたサービスを購入し対価を支払うものであり、基本契約は一本の契約であると考えている。

     

   オ 条件規定書(タームシート:契約案の骨子)の作成

    ※ 従来の県の契約にはない設計・建設・資金調達・維持管理等にわたる多面的性格を有する。

    @ 構成
      (ア)用語の定義
      (イ)事業の大要
      (ウ)設計・建設請負・売買
      (エ)維持管理
      (オ)法令変更等
      (カ)契約期間及び契約の終了
      (キ)表明保証及び誓約
      (ク)税金
      (ケ)不可抗力
      (コ)その他
      (サ)株主の誓約
      (シ)銀行団との協議

    A 条件規定書の内容例:

施設の引渡し後の事業の確実な実施を確保するため、県は次の手段を有する。
 (ア)維持管理のモニタリングとその結果による維持管理料の減額
 (イ)文書による通知後の相当期間の支払い停止
 (ウ)適切な処置の請求後の協力会社等の変更の請求
 (エ)半年間の県の指定する者による維持管理業務の実施(費用負担は事業者)及び業者の損害賠償
 (オ)県の承認した者への契約上の地位の譲渡

      

○ なお、実施方針及び特定事業の選定の公表方法については、記者発表等により対応

   カ 公募(公募型プロポーザル方式により実施)・事業者の選定

    @ 提案書の審査(資料4参照)
     ※ 7グループから応募があった。
     (ア)審査委員会の設置
        県職員以外に、建築、保健医療、福祉及び金融の各分野についての学識経験者に委員を依頼。
     (イ)審査基準の作成
     (ウ)選定作業
       数百項目に及ぶ建築、設備及び維持管理業務のチェック作業が必要。
       ※ これら一連の作業には、事業所管部局である衛生部(衛生総務室)及びPFI所管部局である総務部(財産管理課、建築工事課、建築設備課)が一体で従事。
    A 優先交渉権者の選出(平成12年4月7日)
       優秀提案(優先交渉権者)1、佳作提案2を選出
    B 事業者の選定(平成12年5月中旬を予定)

   キ 仮契約(平成12年6月を予定)

    @ 基本協定書案の作成
    A 基本契約案の作成
    B 優先交渉権者との交渉

   ク PFI契約の議決(平成12年6月県議会を予定)

    @ 債務負担行為の設定
    A 契約の議決

   ケ 本契約の締結(平成12年7月を予定)

6 今後予定している事業

(1)新衛生研究所(15年度中完成予定)

   ア 目的

     新しい感染症、残留農薬などによる健康被害の防止や、県民の健康維持・増進と生活の質の向上をめざした保健サービスの強化が求められていることから、現在横浜市内にある衛生研究所の老朽化に伴い、同所の施設整備と機能の充実強化を図り、地域保健に関する科学的・技術的中核施設とするため、茅ケ崎市内の県有地に移転、整備する。

   イ 施設の概要

    @ 建設予定地 茅ヶ崎市下町屋1丁目547番1ほか
    A 敷地面積  20,551.72?
    B 建築概要(新棟:実験棟)
       構造・規模 鉄筋コンクリート造(免震構造)地上3階建
       延床面積  約8,000?
    C その他
       移転先の既存棟(SRC造7階建約8,000?)の一部を改修し、研究事務室、管理事務室、共同研究事務室などを配置。新規整備は実験棟のみ。

   ウ 手法

    @ BOT方式により整備
    A 事業形態はサービス購入型
    B 県で実施設計まで終了していることから、PFI事業者から維持管理費の低減をねらいとしたVE提案を求める
    C VFMの試算の内容は検討中
    D 検査・研究業務は県、施設整備、維持管理、修繕のほか、研究支援業務(実験動物飼育業務、検体運搬業務、実験器具洗浄業務など)はPFI事業者にゆだねる
    E 選定方法は、総合評価一般競争入札方式を採用

   エ スケジュールの概略(一般的なスケジュールを想定)

    @ 実施方針公表                 12年4月28日
    A 特定事業の選定                12年6月上旬
    B 債務負担行為の設定              12年6月県議会
    C 意見招請締切り                12年6月30日
    D 仕様書案、落札者決定基準案の策定等      12年夏
    E 入札公告                   12年8月下旬
    F 入札                     12年11月中旬
    G 落札者決定                  12年12月下旬
    H 仮契約                    13年1月下旬
    I PFI契約の議決               13年2月県議会
    J 本契約の締結                 13年3月末

(2)近代美術館新館(15年度中開館予定)

   ア 目的
     近代美術館本館の現在地(鎌倉市)で不足する機能について、本館と連携可能な三浦郡葉山町内の県有地に新館を整備し、本館と合わせた2館体制により、展示・収蔵機能の充実など、生涯学習時代にふさわしい機能を備えた美術館とするものである。

   イ 施設の概要
    @ 建設予定地 三浦郡葉山町一色三ヶ岡2208―1
    A 敷地面積  約15,000?
    B 建築概要
       構造・規模 鉄骨鉄筋コンクリート造・地上2階地下1階建
       延床面積 約6,000?

   ウ 手法
    @ BOT方式による整備の方向
    A 事業形態は、サービス購入型の予定
    B 県で実施設計まで行うことから、維持管理費の低減をねらいとしたVE提案をPFI事業者から求める予定(VE提案を求める範囲につき検討中)
    C VFMは試算中
    D 展覧会の企画・開催、作品の収集・保管などの業務は県、施設整備、維持管理、修繕のほか、レストランやミュージアムショップの運営はPFI事業者にゆだねる方向で検討中
    E 選定方法は、総合評価一般競争入札方式を採用する予定

   

(3)海洋総合文化ゾーン(16年度中開館予定)

   ア 事業概要
    県立湘南海岸公園の再整備にあたり、既存のマリンランドや海の動物園施設を有効活用し、民間活力を導入した手法により、新水族館及び体験学習施設の整備を行う。

   イ 手法
    未定(独立採算型・ジョイント・ベンチャー型の複合型を検討)
   ウ スケジュールの概略(予定)
    @ 事業実施(実施方針の策定等)に向けた調査   12年度
    A 実施方針策定、特定事業の選定、募集要項の作成 12年度中
    B PFI事業者の選定              13年度

7 手続を進めるに当たっての課題

(1)技術的手続

  ア 性能発注のため、事業者側もどの程度の水準を確保するか判断がつきにくい。
  イ 審査基準の項目、技術や価格の配点をどうするか
  ウ VE提案導入時に、審査基準をどう設定するか
  エ PFI法に基づく支援の内容が明らかではない現時点で事業者を募集する場合、県側から支援内容を示すことが困難
  オ 弁護士など専門家の支援を受けるためのアドバイザー契約の締結が不可欠

(2)その他

  ア 全庁的なPFIマニュアル(「PFI事業導入の指針(仮称)」)の策定
  イ 総合評価一般競争入札方式の手法の確立
  ウ 規制緩和の推進