デジタル動向・マンスリー・ニューズレター

第1回 DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か

まず第1回は、DX[1](Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)の基本概念を整理したい。

昨今、社会や企業を取り巻く環境は日に日に変化し、複雑さや不透明さを増している。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)や、ウクライナにおける危機的状況が及ぼす影響は、わたしたちの社会が必ずしも安定的なものではなく、変化にすばやく対応しなければ、持続し続けることすら難しいということを明らかにした。このような中、デジタル技術による社会変革、DXの重要性がますます高まっていると考られる。

それでは、DXとはなんなのだろうか。

まず、DXという概念は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によってはじめて提唱された。その定義は、

「デジタルトランスフォーメーションとは、人間の生活のすべての面において、デジタル技術が引き起こすあるいは影響を与える変革のことだと理解されるべきである(The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life)」(飾森訳)

として、人間社会のすべてに影響を与えるデジタル技術による変革がDXだとしている。[2]

また、政府の世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(令和2年7月17日閣議決定)では、DX を次のように定義している。[3]

「DXとは、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネスモデルを創出・柔軟に改変すること。企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽けん引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること。」

一方で、DXと同様に、広い意味でのデジタル化の範疇に含まれる概念として、デジタイゼーションとデジタライゼーションという言葉がある。国連開発計画(UNDP)ではこの両者を次のように定義している。[4]

  • デジタイゼーション(Digitization)
    • 既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換すること
  • デジタライゼーション(Digitalization)
    • 組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築すること

言い換えれば、会社内の特定の工程における効率化のためにデジタルツールを導入するのが、デジタイゼーションであり、自社内だけでなく外部環境やビジネス戦略も含めたプロセス全体をデジタル化するのが、デジタライゼーションである。

上記、デジタイゼーション、デジタライゼーションに対し、DXとは、企業活動において、デジタル技術の活用によって、業務、組織、文化までを変革し、新事業を生み出すデジタル変革の取り組み全体を指すことだといえる。AI、IoT(モノのインターネット)、クラウド、モバイル、5G(第5世代通信)、ブロックチェーン(分散型台帳)などの革新的技術が継続して変化する中で、新たな顧客体験や顧客価値を圧倒的なスピードのサービスとして提供して、創出する、ビジネスモデルの破壊的刷新が企業活動に求められているのである。

DXを実行していくためには、顧客やエンドユーザーから、企業内の各業務部門、バックオフィスまでのバリューチェーンを一本で連携することにより、AIなどの新技術の導入、データの利活用を、一瞬で実現するデジタルプラットフォーム(データ連携基盤)の構築が極めて重要になる。データ連携基盤とは、新技術の導入、活用による顧客データのリアルタイムの収集、分析、予測、問題発見、問題解決を支援するデジタルインフラである。  新たな顧客体験・価値をサービスとして提供するデータ連携基盤は、多様なビジネス組織を包含するエコシステムから構築されることで、より高度な付加価値を生み出す。ここでのエコシステムは、一組織や一企業の枠を超えた協業・創業、高いユーザー目線や素早いアプリケーションを開発するスタートアップ企業なども含めて構成される。

DXは企業だけではなく、都市経営にも適用できるだろう。都市のDXとは、都市がデータとデジタル技術によって、都市経営を変革し、市民、来訪者、企業、社会ニーズをもとに、都市の諸課題を解決するサービス価値を劇的に変革向上することだと言える。

都市におけるDXは、都市という公共財の便益を高める投資をいかに行うかが問題である。今後は、都市のデータ連携基盤を、だれがどのように整備するのか、その投資をどのように回収するのか、公共サービスの収益化は可能なのか。データ連携基盤を構築するエコシステムは、どのようなメンバーで、どのように構築されるべきか、などが課題となろう。

次回は、DXにおける諸課題を乗り越えようとしている、企業、組織の事例を紹介したい。


  1. Digital transformationの略称が「DT」でなく「DX」であるのは、「越えて・横切って」の意味を持つ「trans-」を英語圏では一般的に「X」と略記することに準拠
  2. Erik Stolterman,「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」,2004
  3. https://www.moj.go.jp/content/001345317.pdf
  4. UNDP Digital Strategy
    https://digitalstrategy.undp.org/documents/Digital-Strategy-2022-2025-Full-Document.pdf

特定非営利活動法人 日本PFI・PPP協会
DX主任研究員 飾森 正