デジタル動向・マンスリー・ニューズレター

第2回 DX(デジタルトランスフォーメーション)の企業事例①

1.はじめに

第1回では、DXの基本概念を整理した。DXとは、企業、組織活動で、デジタル技術の活用によって、業務、組織、文化までを変革し、新事業を生み出すデジタル変革の取り組みである。また新たな顧客価値を迅速なサービスとして提供する、ビジネスモデルの破壊的刷新である。さらに、デジタル変革には、データのリアルタイムの収集、分析、予測、問題発見、問題解決を行うデジタルプラットフォ-ム(データ連携基盤)が重要だとした。それでは、そのようなDXを実行している企業はどのような企業だろうか。以下2つの米国の事例を紹介したい。


2.DX事例①:Uber

DXの典型的な事例として紹介されるのが、Uberである。

Uberのビジネスモデルは、自動車配車サービスである。顧客はUberアプリを使用して自分の行きたい場所を指定して配車を希望する。どこに配車するかも指定可能だ。場所を指定すると、ドライバーの情報や現在地、配車までの時間が表示される。あらかじめ行先を指定して乗り込み、運転手に行先を告げる必要もない。料金はUberアプリを通じて決済されるので、ドライバーとの金銭交渉もない。

一般的なタクシーと異なるのは、Uberで配車されるのはタクシーではなくUberに登録している個人の自動車だということである。料金はすべてアプリ経由で支払うので、悪徳商法として料金を取られる心配もない。利用者がドライバーの評価をするシステムなので、運転マナーなどの悪いドライバーは排除できる仕組みになっている。また、ドライバー側も利用者を評価できるので、利用者側も節度を持った利用になりサービスの品質が一定に保たれるという仕組みだ。

このUberのビジネスモデルには、迅速性、信頼性、スケーラビリティ、変化に対応できるデジタルプラットフォームの構築が鍵となっている。UberはGoogle Cloud Platform、AWS(Amazon Web Services)を中心としたクラウドを活用してデジタルプラットフォーム[1]を構築し、地図機能、コミュニケーションや決済機能を組み合わせることによって開発の時間とコストを削減した。このデジタルプラットフォームによって、需要の急増に応じた素早く効率的なサービスの拡大と、運用時の手間の低減を実現した。

AI(人工知能)技術に関しては、ドライバーと利用者のマッチング、経路選択、乗車履歴の分析だけでなく、車両の正確な位置把握やセンサー処理による事故検知にも使われている。マッチングでは、現在および過去の動向を使って需要を予測し、ドライバーに需要が高いゾーンを教える。その解析結果から、ドライバーの共有状況と需要に応じて、ゾーンごとに価格を設定することも可能になっている。


3.DX事例②:Netflix

Netflixは、1997年創設当時、米国国内で多数の店舗を展開していた実店舗型のDVDレンタルビジネスサービスを行っていた。わざわざ店舗に出向く必要性や高額の延滞料金を支払う必要があるといった不便さを解消し、顧客中心主義の観点からサービスを提供することを目的に、郵送定額制のレンタルサービスで市場参入、従来のビジネスモデルを破壊する企業として急成長を遂げた。

Netflixは順調に有料会員数を伸ばしていたが2007年、新たな消費者ニーズに対応するため、郵送によるレンタルサービスに加え、定額制の動画配信サービスを開始する。[2]2007年2月までに10億枚のDVDを郵送していたNetflixは、DVDレンタルサービスが依然として人気を集める中、物流・配送能力に長けたレンタルサービス事業者として有力企業として成長していた。しかし、ここで注目されるのは、Netflixが、ビッグデータ解析の力を認識し、会員がレンタル要請する作品のパターンを、より効率的に予測するためのレコメンデーション・エンジンの開発に早くから注力し、データを利活用するデジタルプラットフォームを構築したことである。パソコンやモバイル端末、スマートテレビ、ビデオゲーム機などの端末機器を用いて、多種のデバイスから視聴可能なNetflixは現在、米国ではプライムタイムにウェブ上で最も視聴されているエンターテインメントサービスとなっている。[3]

NetflixのDX戦略は、顧客の視聴傾向等に関するビッグデータ解析(レコメンデーションエンジン)が主軸となっており、ホームページ上で各顧客にパーソナライズされた話題作やお薦め作品を表示することで、検索しなくても視聴したい作品を迅速に見つけられるという最適な顧客体験、顧客価値を提供している。Netflixは、視聴者の行動・嗜好データをNetflixで制作する作品の決定にも役立てており、ヒット作を生み出している。

米国におけるドラマシリーズの制作は通常の常識枠から飛び出し、Netflixでは、有名作品「House of Cards」[4]他の制作にあたっては、監督及び主演男優に対する顧客の嗜好データを基にシリーズのヒットを確信し、パイロット制作を行わず最初からシリーズ分の制作に1億ドルを投資することを決定している。[5]またNetflixは、オリジナル作品の制作問題に直面しても、視聴者のフィードバックデータなどを基にシリーズ制作の継続・配信キャンセルなどを迅速に決定しているほか、毎週新たな作品を追加し作品ラインアップで顧客を飽きさせないようにしており、こうした機動的なコンテンツ制作・配信体制がエンターテイメント業界に革新をもたらしている。[6]

次回は、さらにDXを実行している企業事例を紹介したい。



特定非営利活動法人 日本PFI・PPP協会
DX主任研究員 飾森 正