デジタル動向・マンスリー・ニューズレター

第3回 DX(デジタルトランスフォーメーション)の企業事例②

1.はじめに

前回では、データの収集、分析、予測、問題発見、解決を行うデジタルプラットフォ-ム(データ連携基盤)を用いて、ビジネスモデルを変革し、新たな顧客価値を、迅速なサービスとして提供する、米国における典型的なDXのサービス業の企業事例2つを紹介した。

今回は、サービス業とは幾分か様相を異にする製造業においてDXを実行している日米企業の事例を紹介したい。


2.DX事例③:小松製作所

建設機械を製造販売する小松製作所は、顧客である土木・建設業における現場の課題解決に立脚し、「コムトラックス」や「スマートコンストラクション」などの提供を通じて、業界のデジタル変革をリードしてきた。

小松製作所は、2015年、建設機械の情報を集約し、遠隔から確認・操作することができるコムトラックス[1]というデジタルシステムを開発した。同社の建設機械には、通信システム、GPSが搭載されており、コムトラックスから建設機械の位置情報や稼働状況、故障情報、燃料の残量などを確認することが可能だ。また、遠隔でエンジンを止めるといった制御も可能になっている。

これにより、顧客に対し、盗難防止、稼働率向上、保守費用削減、適正価格での売却など価値を提供してきた。一方同社自身は、コムトラックスで、需要予測によるサプライチェーンの最適化、債権回収の確実性、という付加価値を獲得した。

一方、スマートコンストラクション[2]とは、現場を最初から最後までデジタルデータで繋ぐデジタルプラットフォームである。工事が始まる前の現況をドローンやレーザースキャナーを使って測量して3次元化する。それに対して最終目標のデジタル図面を重ねる。掘削・盛り土を正確に把握、デジタルで自動・半自動制御される建機を投入する。最終的に建築が完成すると、再び測量して3次元データと設計データの整合性をデジタルで照合する。2021年3月末現在では13,700以上の現場にスマートコンストラクションが導入されているという[3]

さらに、同社は、2020年4月から、「デジタルトランスフォーメーション(DX)・スマートコンストラクション」[4]を掲げて取り組みを深化させている。DXスマートコンストラクションは、建機の進化と、オペレーションの最適化の2軸で、施工にデジタル変革を起こすことを目標としている。安全で生産性の高い、クリーンな現場を実現する。これが施工のDXである。DXスマートコンストラクションは、クラウドを活用し、①現場のデータのデジタル層、②データを有効な情報に変えるプラットフォーム層、③アプリケーション層の3層からなるデジタルプラットフォームを構築した。可視化、課題発見・分析、最適化、最適な施工計画の作成、最適なタスクを作成し現場で作業を行う。タスクとは、建機ヘのガイダンス・自動化、人への作業指示報告、部材の最適調達、納品報告などである。

小松製作所は、全世界の同社の建設機械自体をデバイス化し、それらをすべて包含する、コムトラックスを構築して、顧客への価値を高め、さらに、DXスマートコンストラクションを掲げ、デジタルプラットフォームを構築し、現場の施工まで踏み込んだ業務改革を行い、DXを実行することで、建設土木業のデジタル変革を行っている。同社自身単なる建設機器製造販売のビジネスから、保守整備サービスのマネタイズ、サービスビジネスへの転換を図り、機器製造販売のビジネスモデルからの変革を達成した。


3.DX事例④:Pitney Bowes

Pitney Bowes社は、郵便料金計器を発明・実用化した大手郵便関連機器メーカーで、世界の郵便・配送関連市場をリードしてきた。しかし、デジタル化の進展で書類ベースの郵送業務が縮小する中、同社が目を付けたのが急成長を遂げているeコマース分野である[5]。同社は2015年、郵便・配送事業の経験を活かし、eコマース企業が商品の配送に必要な料金の計算・支払いを含む配送プロセスを効率的に管理可能なクラウドサービス、「Pitney Bowes Commerce Cloud」を開発する[6]

また同社は、中小規模のeコマース企業による同サービスの利用を促進するため、Commerce Cloudの機能を利用して他のクラウドサービス・モバイルアプリケーション企業がアプリケーションを開発できるようにするデジタルプラットファーム「Small Business Partner Program」[7]も立ち上げている。2019年9月時点で、提供されているロケーション・インテリジェンス、配送、グローバルeコマース関連のCommerce Cloud APIは200近くに上っており、Commerce Cloud上で稼働するソリューションには、クラウドベースの配送・郵送向けアプリケーション、地理空間情報ソフトウェア向けデータセット、パブリックAPIのポートフォリオ、テレメトリーデータを用いたIoT対応の郵便料金計器などが含まれる。

2012年末からPitney Bowes社は、既存事業の強みを基盤とし、新たな環境で事業を再定義することを狙い、DX戦略を推進してきた[8]。同社は、組織内のサイロ化を解消し全社共通のデータ解析システムを開発、顧客データは現在、中央システムに保存され、全ての従業員がより迅速にアクセスし顧客ニーズに沿った戦略的決定を行えるようになっている。組織内システムを効率化し機械学習やデータを用いて組織業務を統合することで、同社の従業員は顧客に対し一貫して先進的なサービスを提供できるようになっている。「トランスフォーメーションの成功は組織文化が左右する」と考える同社は、顧客中心主義の組織文化を徹底することで従業員の意識を変え、顧客により良いサービスを提供するために必要なテクノロジー・ツールの導入につながったとしている[9]


今回は、製造業におけるDX企業の事例を紹介した。いずれも、クラウド等最新技術を活用し、事業ドメインを再考し、単なる製造業から、業界改革、サービスビジネスへの展開、組織での顧客志向の徹底を行っているのが特徴である。次回は、DXを実行しているスタートアップ、ベンチャー企業の事例を紹介したい。


特定非営利活動法人 日本PFI・PPP協会
DX主任研究員 飾森 正